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再生したら、自分のまわりの声だけはっきり聞こえて、長机の向こう端の発言が何も分からない。もう録り直せません。
検索して出てくる対処法は、どれも次の会議の話です。マイクを近づける。席順を見直す。試し録りをする。いま手元にあるファイルについては、何も言ってくれない。
実機を並べて録り比べた記事ではありません。読んだのは、メーカーが説明書に書いた行です。いま手元のファイルについて確かめられるのも、そこだけです。
今あるファイルに効く、公式の3行
説明書の再生側の節に、聞き取れないときのための項目が並んでいます。録音し直す話ではないので、今日の議事録に間に合います。
ソニー ICD-PX470F のクリアボイス。公式のヘルプガイドで「クリアボイス1」は「音声以外のノイズを低減し、声の大小を自動調整して聞きやすいクリアな音になります」。「クリアボイス2」は「さらに強いノイズ低減、音声の自動調整効果」。お買い上げ時の設定はオフです。そしてご注意に「内蔵スピーカーで再生しているときや、ミュージック内のファイル再生時は、クリアボイス機能は働きません」。机に置いて本体のスピーカーで聞き返している限り、この機能は1度も動いていません。
OM SYSTEM WS-883/WS-882 のボイスバランサー。説明は「低音域と高音域成分をカットし、音量が小さい部分を大きくなるように補正する機能です。会話などの小さい音を大きく明瞭にします」。同じ機種のノイズキャンセルは、見出しがそのまま「録音した音声が聞き取りにくいときはノイズキャンセルを設定してください」。HIGHとLOWの2段あります。どちらも電池の消耗が早くなると書かれています。
書き起こし用の再生モード。ソニーには「書き起こし用再生」という項目があって、公式の説明は「議事録等を書き起こすときに便利なモード」。再生速度を落としながら、聞きたい所を行き来できます。ここだけ何度も聞き直す作業は、この中でやるほうが速い。
ここまでが、もう録ってしまったファイルにできることです。そして、次に録るときの話が本題でした。
「会議」モードは、遠い声用の設定ではなかった
ソニーが1冊、OM SYSTEMが2冊。公式の説明書の、同じ所を並べます。
ソニー ICD-PX470F。内蔵マイク感度の「高」の説明は「広い会議室での録音など、遠くの音や小さい音を録音するときに使用します」。1つ下の「中」は「会議室での録音やインタビューなど、通常の会話や打ち合わせの音声を録音するときに使用します」。そしてシーンセレクトで「会議」を選んだときの既定値は、同じヘルプガイドの表で音声用の「中」でした。
OM SYSTEM WS-883/WS-882。録音レベルの選択肢に、名前からして「高(会議)」という項目があります。説明は「録音感度が高く、講義や大人数の会議など、遠くの音や小さな音の録音に適しています」。ところが録音シーンの「会議」に登録されている録音レベルは「オート」。「高(会議)」が登録されているシーンは「商談」のほうでした。商談の説明は「少人数の小スペースでの商談に適した録音設定」です。
OM SYSTEM DM-750。この機種にはズームマイクという、内蔵ステレオマイクの指向性をマイナス3からプラス6まで動かす設定があります。プラス側にすると集音の範囲が狭くなって、指向性が高まる。録音シーンの「会議」の登録内容は、録音レベルが「オート」、ズームマイクは「OFF」。ズームマイクがプラス6で登録されているシーンは「講義」です。
3機種とも、広い部屋の遠い声に効く設定を持っています。3機種とも、それを「会議」には入れていません。
「会議」のまま感度だけ上げる、はできない
なら会議モードを選んだあとで感度だけ上げればいい、と思うところですが、そこは閉じています。
WS-883の説明書のご注意に「録音メニューの機能から各設定項目を選ぶとき、設定中の録音シーンは自動的に[OFF]になります」。DM-750には「[録音シーン]を設定すると、他の[録音設定]の機能は無効になります。また、[録音設定]の機能を設定すると、[録音シーン]は[OFF]に変更されます」。
つまり「会議」と「遠くの声」は、同じ機械の中で同時に選べません。どちらか1つです。遠い席を録りたいなら、会議モードは捨てることになります。
ソニーは形が違いますが、止まる所は同じでした。声の重なりを減らして誰の発言か分かりやすくする「ワイド録音」は、シーンセレクトの「会議」を選ぶと自動で入ります。ただし公式のご注意に、マイク感度が「オート」のときはフォーカスとワイドの設定が無効になると書いてあります。そして感度のお買い上げ時の設定は「オート」です。ワイドだけを自分で選んで、感度の行を触っていなければ、その組み合わせでワイド録音は働きません。ワイドを使うなら、感度を「オート」から動かすところまでが1組です。
机の上に直接置かない。これは公式が理由まで書いている
置き方で1つだけ、はっきり書いてあることがあります。机に直接乗せるな、です。
OM SYSTEMの説明書の活用のヒントに、こうあります。「机上のモノを動かしたときの音や振動、机の脚から伝わる足音などの雑音は、聞こえる音よりも大きく録音されてしまうことがあります」。会議中の耳には小さかった音が、ファイルの中では発言と並ぶ大きさになる。
ソニーの指示は、物の名前まで書いてあります。「ハンカチなどの上にICレコーダーを乗せることで、机から伝わる振動音などのノイズを低減できます」。ハンカチ1枚です。今日できます。
もう1つ、両社が揃って書いているのが、録音中に本体に触るなというもの。触った音はタッチノイズとして録音されます。置いたら、終わるまで触らない。
録音形式を上げても、ここは変わらない
音が小さいなら高音質で録ればいいのでは、という手も浮かびます。ここは公式の数字が、思ったのと逆を言っていました。
WS-883の録音モードの選択肢は、MP3 128kbps、MP3 64kbps mono、MP3 8kbps mono、PCM 22.05k monoの4つ。説明書のヒントは「会議や講演会などをはっきりと録音したい場合、[録音モード]の設定を[MP3 128kbps]にして録音することをおすすめします」です。
リニアPCMのほうが上だと思って選ぶと、この機種では下がります。主な仕様の周波数特性の表で、マイクジャック録音時はMP3 128kbpsが40Hzから17kHz、PCM 22.05k/16bit monoが40Hzから11kHz。公式の表で、PCMのほうが上限が6kHz低い。そしてモノラルになります。
録音形式は、録れた音を保つための行です。入らなかった音を増やす行ではありません。
距離の限界。公式が数字で書いたのは2か所だけ
ここまでが、機械を替えずにできることです。そのうえで、距離の話をはっきりさせます。
3冊を通して、メーカーが距離をセンチかメートルで書いた所は、2か所しかありませんでした。
1つめは、WS-883のヒントです。「話し手の声をはっきりと録音したい場合、[録音レベル]を[低(メモ)]に設定し、本機の内蔵マイクを話し手の口に近づけて5センチから10センチで録音してください」。口元の距離です。
2つめは、別売アクセサリーの欄でした。本体の内蔵マイクが何メートル先まで届くのかは、3冊のどこにも1行もありません。
売り場の側も同じでした。会議用を名乗る録音機173本の商品ページを数えた記事が別にあります。集音距離をメートルで書いていたのは40本だけで、しかもその数字が声の距離ではない物が混ざっていました。説明書も、売り場も、本体のマイクが届く距離については黙っています。
遠い席の声は、感度を上げれば届く所までは届いて、そこから先は届きません。その境目をメーカーは数字で書いていない。だから「高」にして1回録って、自分の会議室で足りるかを見ることになります。足りなかったときの行は、説明書の中にちゃんと用意されています。
足りなかったら外部マイク。選ぶのは仕様の4行
ここで初めて買う話になります。見るのは4行です。
1行目は電源。「プラグインパワー方式」と書かれたマイクは、録音機のマイクジャックから電源をもらいます。マイク側に電池が要りません。
2行目は指向性。全指向性なら向きを気にしなくていい。単一指向性は話者に向ける必要があります。全指向性と無指向性は同じ意味です。
3行目はコード長。これが実際に稼げる距離です。遠い席の近くまでマイクを持っていける長さがあるか。
4行目はプラグの極数と、モノラルかステレオか。ここが事故の出る行です。OM SYSTEMの説明書のご注意に「[録音モード]をステレオ形式に設定した場合、外部モノラルマイクを接続して録音するとLチャンネルのみに音声が録音されます」。買って繋いだのに片側しか入っていない原因は、たいていこれです。
そのうえで言い切ります。公式が距離をメートルで書いた外部マイクは、OM SYSTEMのバウンダリーマイクロホン ME33です。公式の製品ページに「2メートル長のコードをつないで、大きな会議場での各自の声を、均等かつ聞き取りやすく録音できます」「席の広がった大人数の会議でも、遠くの話者の声をしっかりと録音できます」とあります。仕様は全指向性、プラグインパワー方式、コード長2メートル、プラグはØ3.5mmの3極ミニプラグでモノラル、重量約110g。1台でも使えて、ステレオマイクジャックの機種ならLとRに各3台まで、合わせて6台まで。DM-750の説明書には、カスケード接続すれば左右合わせて最大約12メートルまで延長できると書かれています。2026年11月8日に公式ページで確認しました。
同じアクセサリー欄にある全指向性2チャンネルの ME30W は、左右のマイクを最大約5メートル離せる物です。できることは広いのですが、売り場の値はME33よりかなり上を向いていました。
遠い席の発言は、聞き取れなかったと分かった時点で、もう誰も正確には思い出せません。本人に聞き直せるのは、せいぜい翌日までです。
▼社内AIのイチオシ。公式が距離をメートルで書いている、ただ1つのマイクです
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1つだけ先に言っておきます。公式のマイク対応表に○が付いているのは、OM SYSTEMのICレコーダーです。WS-883、DM-750、VN-551PC、LS-P5など、ほとんどの機種に付いています。スマートフォンで使えるとは、公式のどこにも書かれていません。スマホで録っていて音が小さい人は、Appleの公式ガイドに書いてある直し方が1文だけだった話のほうが先です。
身も蓋もない話
「会議」という名前は、買う前に効きます。「高(会議)」や「商談」や「講義」は、買ったあと、メニューの3階層目で初めて目に入る言葉です。そこへ辿り着く人は、たぶんもう一度、遠い席の声を失っている。
3冊の説明書は、遠い声を録る方法も、録れなかった音を聞き取る方法も、全部書いていました。書いていなかったのは、それが「会議」モードではないという1行だけです。モードの名前は、あなたの用事の名前であって、機械の設定の名前ではなかった。
録音機は、設定されたとおりに録って、設定されたとおりに鳴らします。「会議だから会議モードだろう」と考えたのは、機械ではありません。
この記事で引いた設定名と説明文は、2026年11月8日に取得したメーカー公式の文書です。ソニー「ICD-PX470F ヘルプガイド」の「より良い音で録音するには」「シーンセレクト機能のお買い上げ時の録音設定について」「マイク感度を設定する」「ノイズを軽減して録音する」「フォーカス録音/ワイド録音を設定する」「外部マイクをつないで録音する」「再生音の雑音を低減して音声を聞きやすくする」「録音を書き起こす」の各ページ、OMデジタルソリューションズ「WS-883/WS-882 取扱説明書」および「DM-750 取扱説明書」のPDF、同社の「バウンダリーマイクロホン ME33」製品ページと「マイク対応表」。設定名は各社の表記のまま書いています。機種によってメニューの名前と階層は違います。仕様と価格は予告なく変わります。本記事のリンクには広告が含まれます。